【映画業界大手3社比較】東宝・東映・松竹の違いを解説-仕事内容や強み、年収、社風など-

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最終更新日:2024年01月18日

【映画業界大手3社比較】東宝・東映・松竹の違いを解説-仕事内容や強み、年収、社風など-

本記事では映画業界の中でも「東宝」「東映」「松竹」の3社について比較し、各社の事業内容や強みの違い、売上高や平均年収ランキングなどを解説します。

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映画業界の現状・今後の動向

映画業界の現状と今後の動向

「東宝」「東映」「松竹」の違いを比較する前に、まず映画業界全体の動向や現状について解説します。

映画業界の現状

ここでは映画業界の現状について解説します。

映画業界はコロナウイルスの影響を大きく受けた業界の1つといえるでしょう。

実際に日本映画製作者連盟によると映画業界の入場者数、興行収入は以下のようになっております。

■入場者数

映画業界の入場者数

■興行収入

映画業界 興行収入

上記からわかる通り、コロナウイルスの影響を受けた2020年は観客動員数、興行収入ともに大きく減少していますが、2021年には数値が多少増加しており回復の傾向が見られます。

時短営業の解除や、多くの映画館で座席の感覚を開けずに全席販売を再開しているため今後も映画業界の業績は回復していくと考えられるのではないでしょうか。

映画業界の今後の動向

次に映画業界の今後の動向について解説します。

コロナウイルスの影響を大きく受けた映画業界ですが、今後は「映像や演劇の高品質化を行うことで競争力を高める」と考えられるのではないでしょうか。

映画業界では既にコロナウイルスの影響による規制を緩和し全席販売などを再開しています。

しかしコロナ禍におけるライフスタイルの変化によって配信サービスなどを利用した映像の家庭内視聴が普及し、従来の方法だけでは興行収入の増加は難しいと考えられます。

そのため今後は映画業界各社で家庭内視聴との差別化や映像コンテンツの高品質化を図るべく「映像や演劇事業の改革」が活発になるのではないでしょうか。

実際に東宝、東映、松竹の3社は以下の施策を行っています。

東宝の施策

●高集客立地へのシネコンの出店
●轟音シアター、IMAXなどの導入による家庭内視聴との差別化

東映の施策

●「バーチャルプロダクション撮影」導入のために国内の映画配給会社初のLEDスタジオを設立
●デジタルヒューマン技術によるショートムービー公開など映像コンテンツの高品質化

松竹の施策

●MRヘッドセットを装着し歌舞伎を鑑賞するコンテンツの開発

上記からも今後の映画業界は表現や演出の幅を広げるなどすることで映像、演劇の高品質化を行っていくと考えられるのではないでしょうか。

東宝の企業研究ページ(選考通過者ES・本選考レポート・選考対策記事)はこちら
東映の企業研究ページ(選考通過者ES・本選考レポート・選考対策記事)はこちら
松竹の企業研究ページ(選考通過者ES・本選考レポート・選考対策記事)はこちら

なお、映画業界から内定を獲得したいという就活生には就職エージェントneoの利用もオススメです。
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東宝・東映・松竹の売上高・事業内容・強み比較

東宝・東映・松竹の事業内容、強み比較

上記では映画業界全体の現状や今後の動向について解説しました。

ここからは映画業界の中でも東宝、東映、松竹の3社を多方面から比較していきます。

まずは各社の売上高、事業内容、強みを比較します。

東宝・東映・松竹の売上高比較

初めに各社の売上高を比較します。各社の売上高の推移は以下のようになっています。

東宝

東宝の売上高

東映

東映の売上高

松竹

松竹の売上高

上記を見ると、3社ともにコロナウイルスの影響を受け2021年は売上高が大きく減少し、2022年には多少回復しています。

決算期ごとの売上高を比較してみると、東宝は3社の中で最も売上高が高くなっており、東映と比較しても2倍近くの売上高となっているのが分かります。

東宝は今後「アニメ事業」を第4の柱として注力する方針を発表しており、売上高の更なる向上を図っています。東映や松竹を含めた各社の事業内容についても以下で紹介するため参考にしてみてください。

東宝の事業内容・強み

ここからは映画業界各社の事業内容や強みについて解説します。まずは東宝の事業内容・強みです。

上記でも述べましたが、東宝は東映、松竹と比較すると最も売上高が高く国内トップシェアを誇ります。

1932年の創業以来「大衆本位」「お客様本位」を理念として掲げ、現在は「映画」「アニメ」「演劇」「不動産」の4つの事業を柱としています。

「ゴジラ」や「モンスター・ハンター」などの作品で海外と共同制作を行っている点は特徴的といえるでしょう。

また今後は2032年の創立100周年に向け「映画キャラクターなどの新たなコンテンツ企画」「人材育成」「映画事業とアニメ事業の両輪展開」を掲げ、更なる成長を目指しています。

「アニメ事業」に関しては第4の柱とする方針を発表しており、既に公開している人気アニメの映画に加え今後も人気がある漫画のアニメ化権の獲得に注力するとしています。

東宝の企業研究(ES・レポート・関連テクニック/コラム記事)はこちらから

東映の事業内容・強み

東映は1951年に東横映画、太泉映画を吸収合併し設立されました。「全世界で人々に愛されるエンタテインメントの創造発信」を企業理念に掲げ、「総合コンテンツ企業」として14の事業領域から多角的なビジネスを展開しています。

映画やテレビドラマに加えてキャラクターショーなどのイベントも開催しており、イベントやプロモーションの開催実績は業界トップのシェアとなっています。

さらに学校教育や交通安全など教育映画と呼ばれる作品の制作も手掛け、こちらも業界トップシェアとなっている点は強みと言えるでしょう。

また事業が多い分、東宝、松竹と比較すると安定して収益を得られるのではないでしょうか。

実際に東映の2021年度のセグメント別売上高は以下のようになっています。

東映のセグメント別売上高

映像関連事業、興行関連事業が売上のほとんどを占めてはいますが、「催事関連事業」「観光不動産事業」「建築内装事業」の3つでもいくらか収益を得ており、また3事業の売上高は近いものとなっています。

一方で東宝、松竹は映像関連事業、演劇関連事業、不動産事業の3つが主な収益源となっており、映像関連事業、不動産事業が売上のほとんどを占めています。

コロナウイルス流行により映像事業が打撃を受け3社の売上高が減少した際に、最も下げ幅が小さかったのが東映であることからも事業数の多さは強みと言えるのではないでしょうか。

東映の企業研究(ES・レポート・関連テクニック/コラム記事)はこちらから

松竹の事業内容・強み

松竹は1895年に大谷竹次郎が京都の新京極阪井座の仕打(興行主)となり、1902年に松竹(まつたけ)合資会社として設立されました。

「 日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する」「時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」をミッションに掲げ、映像事業、演劇事業、不動産事業を軸に事業展開しています。

映画業界のみならず、民間企業全体でも唯一「歌舞伎」を手掛けている企業になります。

歌舞伎の企画・制作から興行に至るまで一貫して携わり、さらに歌舞伎座、新橋演舞場、大阪松竹座、京都南座の4つの劇場運営も行っている点は強みと言えるでしょう。

2021年度の売上高の構成は映像事業が約56%、歌舞伎が含まれる演劇事業売上高のは約22%を占めています。

コロナウイルスの影響を受けた2020年度と2021年度の売上高を比較すると、映像事業は21%の増加であったのに対し、演劇事業は2倍以上になっていることから貴重な収益源であることが分かるのではないでしょうか。

また、歌舞伎の配信サービスである「歌舞伎オンデマンド」の海外配信も開始しており、「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する」というミッションの達成に向けて事業拡大していると考えられます。

松竹の企業研究(ES・レポート・関連テクニック/コラム記事)はこちらから

東宝・東映・松竹の社風比較

東宝・東映・松竹の社風比較

上記では映画業界大手3社の事業内容や強みを解説しました。各社の特徴が理解できたのではないでしょうか。

ここでは東宝・東映・松竹の社風について解説します。社風は各社の比較や差別化を図る要素にもなるため参考にしてみてください。

東宝の社風

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東映の社風

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松竹の社風

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東宝・東映・松竹の平均年収・平均年齢・勤続年数・採用人数ランキング

東宝・東映・松竹の平均年収、勤続年数、平均年齢、採用人数ランキング

ここまでで映画業界の動向や現状、さらには東宝、東映、松竹それぞれの強みや特徴を理解できたのではないでしょうか。

次に東宝、東映、松竹の年収、平均年齢、勤続年数、採用人数ランキングを紹介します。

いずれの項目も就活生が押さえておきたい部分だと思うので是非参考にしてみてください。

3社の年収、平均年齢、勤続年数、採用人数ランキングは以下になります。

東宝、東映、松竹の平均年収、平均年齢、勤続年数、採用人数ランキング

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最後に

映画業界 比較 最後に

本記事では映画業界の中でも「東宝」「東映」「松竹」の3社について事業内容や強み、平均年収ランキングなど各社の違いを比較しました。

3社ともに映画業界の中でも多くの就活生が志望する企業と考えられるため、違いを明確に述べられるように整理しておきましょう。

また映画業界の企業は制作の仕事だけでなくその他の事業を行っていることもあるため、本記事を参考に企業研究を入念に行った上で選考に臨むようにしましょう。

unistyleでは以下にも選考突破に役立つ記事を掲載しています。こちらも参考に今後の就職活動にお役立てください。

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10年間で海外売上高比率を54%まで高めた電通のM&A戦略 10年間で海外売上高比率を54%まで高めた電通のM&A戦略 2015年度12月期の電通グループの売上総利益は約7,619億円、海外売上総利益は4,140億円の54.3%と国内事業の売上高よりも大きくなっています。2006年度は海外事業の売上総利益は10%にも満たなかった中で、10年間で国内事業を抜くほどの規模にまで成長させています。この成長を牽引したのが、積極的なクロスボーダーM&Aです。今回は海外売上高比率を半分以上までに高めた電通のM&Aの歴史について見ていきます。参考:電通と博報堂とADKの事業・社風・選考比較【unistyle業界研究】海外展開戦略を打ち出した2008年3月期の経営計画電通は2007年度に発表した「今後の経営方針について」において、明確に海外展開する方針を発表しています。この年の海外事業の売上合計が全体に占める9.5%に過ぎないのですが、ここから2015年度には半分以上までに海外売上高比率が高まります。参考:電通2007年度今後の経営方針について一方で日本テレビはこの時期はまだ海外進出を明確にはしてはおらず、国内の体制強化がメインの経営課題であると認識していることが伺えます。参考:日本テレビ2007-2009年中期経営計画日本テレビもその後、国内市場の縮小という現実に目を向け、2012年には海外ビジネス推進室を設置し、海外での事業収入増加を明確に目指すことを決定していますが、2015年度の決算においてはまだ海外事業収入は全体の0.6%に過ぎません。参考:日本テレビの決算内容に見るテレビ局の海外戦略今後、積極的なM&Aや海外事業展開をすることで電通のように売上高の半分以上を占めるようになるかが注目されます。電通のクロスボーダーM&Aの主要案件前述の通り、電通は海外企業を買収することで海外売上高を高めてきました。ここでは、電通のニュースリリースより、海外M&A案件をご紹介したいと思います。かなり多くなってしまいますが参考にしてください。2007年10月:電通ホールディングスUSAによる米国アティック社及び英国アティック社の買収について2008年11月:電通ホールディングスUSAによるマックギャリー・ボウエン社(米国)の買収について2010年1月:中国最大の販促ネットワークを持つ「サントレンドグループ」と資本・業務提携に関する基本合意書を締結2010年1月:InnovationInteractive社(米国)の買収について2011年1月:インドにおける合弁主要3社の100%子会社化について2011年2月:米国ファーストボーン・マルチメディア社の買収について2011年6月:英国独立系デジタル・マーケティング・エージェンシー「ステーキ・グループ社」の買収について2012年1月:米国独立系広告代理店「MLロジャース社」の買収について2012年1月:ブラジルの独立系デジタルエージェンシー「ラブ社」の買収について2012年6月:カナダの広告会社「ボス社」買収と電通カナダとの統合について2012年8月:インドのクリエーティブ・エージェンシー「タプルート社」の株式51%取得で合意2013年1月:電通、米国の独立系PR会社「ミッチェル・コミュニケーション・グループ」を買収2013年3月:英国イージス社の買収完了と電通グループの新しい事業統括体制について2013年4月:イージス・メディアが中国のデジタルメディア・エージェンシー「北京創世奇迹广告」の株式100%取得で合意2013年4月:タイのブランド・コンサルティング会社「ブランドスケープ社」を買収2013年5月:カナダのデジタルエージェンシー「エヌ・ヴィ・アイ社」を買収2013年5月:ベルギーのブランドプロモーション会社「ニューワールド社」を買収2013年5月:ルーマニアのデジタルエージェンシー「キネクト社」を買収2013年5月:オランダのソーシャルメディア・エージェンシー「ソーシャル・エンバシー社」を買収2013年5月:インドの「ウェブチャットニー・スタジオ社」の株式80%取得で合意2013年7月:イタリアのデジタル・エージェンシー「シンプル・エージェンシー社」の株式70%を取得2013年9月:スペインの広告代理店「ワイメディア社」の株式51%とデジタルエージェンシー「ウインク社」の株式31.8%を同時に取得2013年9月:中国のデジタル・クリエーティブ・エージェンシー「トリオ社」を100%買収2013年10月:ロシアのデジタル・エージェンシー「トラフィック社」を100%買収予定2014年1月:オーストラリアの広告会社グループ「オッドフェローズ・ホールディングス」の株式51%を取得2014年1月:ポーランドのソーシャルメディア・エージェンシー「ソーシャライザー社」の株式100%を取得予定2014年2月:中国のソーシャル・クリエーティブ・エージェンシー「ベラウォム社」の株式100%取得で合意2014年2月:ドイツのデジタルマーケティング・エージェンシー「エクスプリード社」の株式100%取得2014年3月:フランスのモバイルエージェンシー「レ・モビリザーズ社」の株式100%取得で合意2014年5月:ブラジルの独立系最大規模の総合広告会社「NBS」の株式70%取得で合意2014年5月:カザフスタンの広告会社グループ「フィフティー・フォー・メディア社」の株式51%を取得で合意2014年5月:米国の総合マーケティング会社「MKTG社」の買収手続き開始の合意について2014年7月:インド最大のOOH専門の広告会社「マイルストーン社」の株式51%取得で合意2014年8月:南アフリカの広告会社「クリムゾン・ルーム社」の株式60%取得で合意2014年9月:米国の総合デジタルエージェンシー「コバリオ社」のエージェンシー部門買収で合意2014年11月:英国のモバイル・エージェンシー「フェッチ社」の株式80%取得で合意2014年12月:英国のソーシャルメディア・マネジメント・エージェンシー「テンペロ社」の株式100%取得で合意2014年12月:ブラジルのOOH専門の広告会社「OOHプラス社」の株式100%取得で合意2014年12月:米国のデジタル・マーケティング・エージェンシー「ロケット・インタラクティブ社」の株式100%取得で合意2014年12月:カナダのデジタルエージェンシー「スポーク社」の株式100%取得で合意2015年1月:インドの総合デジタルエージェンシー「WATコンサルト社」の株式100%取得で合意2015年2月:オーストラリアのクリエーティブ・エージェンシー「BWM社」の株式51%取得で合意2015年2月:オーストラリアのデジタル・クリエーティブ・エージェンシー「ソープ社」の株式51%取得で合意2015年3月:ベトナムの総合デジタルエージェンシー「エメラルド社」の株式40%取得で合意2015年3月:ギリシャのデジタルエージェンシー「マインドワークス社」の株式80%取得で合意2015年4月:ニューロサイエンス領域に強みを持つ米国のマーケットリサーチ会社「フォーブス・コンサルティング社」の株式100%取得で合意2015年4月:イスラエルのデジタルエージェンシー「アバガダ・インターネット社」の株式100%取得で合意2015年5月:米国のスポーツエージェンシー「アスリーツ・ファースト社」の持分33.3%取得で合意2015年5月:英国のコンテンツマーケティング会社「ジョン・ブラウン・メディア社」の株式85%取得で合意2015年6月:ポーランド「マーケティング・ウィザーズ社」の株式100%取得で合意2015年6月:タイのデジタルエージェンシー「フレックスメディア社」の株式51%取得で合意2015年6月:英国のEコマース専門エージェンシー「eコメラ社」の株式100%取得で合意2015年7月:シンガポールのクリエーティブエージェンシー「マンガム・ギャクシオーラ社」の株式20%を取得注目すべきは2013年に英国イージス社を買収したことです。これはM&Aの金額も4000億円と巨大で、更に本買収完了後に電通の海外M&Aは加速していきます。それまでは年間数件のM&Aだったものが、イージス社買収後には年間10件以上コンスタントに買収を行っています。それほど大きな意味を持つ買収だったことが伺えます。イージス買収後の、電通の海外事業売上高比率は下記のように推移しています。単位:百万円2013年度2014年度2015年度成長率売上高594,072676,925761,996128.27%内、国内売上高(311,416)(333,995)(348,252)111.83%内、海外売上高(282,857)(343,232)(414,066)146.39%海外売上高比率47.61%50.70%54.34%※電通IR資料より、unistyleが独自に作成海外売上高比率が2015年度には54%に達し、全体の売上高の成長も海外事業が牽引していることが見て取れます。ここまで見ると電通はM&A戦略により、見事グローバル企業の仲間入りをしていると言うことができそうです。積極的なM&Aに対する懸念の声一方で電通の積極的なクロスボーダーM&Aに懸念の声を上げる人もいます。日本企業に関わる国際間取引に詳しい弁護士のスティーブン氏は下記の記事にて電通のM&Aに対して3つの疑問を呈しています。①日本企業と海外企業が合併しただけでは、海外の競合と対等に戦えない②日本企業の海外企業に対する経営力の低さ、シナジーが疑わしい③買収金額が高すぎる参考:電通の英国企業買収に3つの疑問:日本企業の海外M&Aの陥穽海外企業を買収して利益を取り込むだけでは、確かに多額の借金をしてまで買収した意味はないといえます。総合商社においても海外企業を買収したものの、シナジー効果が薄いために苦しむという例は少なくありません。中国のCITICグループに多額の投資を行った伊藤忠商事も今後、シナジー効果創出を求められることになるでしょう。参考:伊藤忠、まだ見えぬ「相乗効果」CITICとの協業急ぐまた売上高は海外事業が牽引しているものの、営業利益率は低く、国内事業の営業利益の方が大きい構図となっています。これは海外展開を積極的に進めているNTTデータも同じ構図に陥っており、海外事業の営業利益率の低さは今後改善する必要があるでしょう。単位:百万円売上営業利益営業利益率売上高761,996160,43821.05%内、国内売上高(348,252)(90,403)25.96%内、海外売上高(414,066)(70,156)16.94%参考:野村総研・NTTデータの比較に見るSIer業界、利益率の野村総研・グローバル案件のNTTデータ【unistyle業界分析】最後にテレビ局に比べると早い段階で海外事業展開を打ち出した広告代理店の電通は既に売上規模で見るとグローバル化を果たしているといえます。一方で2013年に4000億円で買収したイージス社とのシナジー効果を生み出すのは今後の課題であり、総合商社のように海外M&Aをうまく用いて成長することができるかについては、まだまだ注視が必要といえます。ここまで電通の海外展開について見てきましたが、このようにドメスティックな日本企業も大きく変わろうとしているのが2016年現在といえます。ぜひこういった業界や企業の背景も少し考えた上で、志望する業界について考えてもらえればと思います。photobyKevinDooley 20,918 views
書評:『<就活> 廃止論』| "就活ルール" の未来 書評:『<就活> 廃止論』| "就活ルール" の未来 日本の新卒採用は大きな転換期を迎えています。中でも直近のメイントピックは、今年9月頭にニュースとなった、"就活ルール"と呼ばれる採用スケジュールの廃止でしょう。各種メディアでもこの手の話は多く取り上げられていますが、重要なのは・アンテナ高く正確な情報を追うこと・基本的にやるべきことは何も変わらないと認識することの2つに限ると思っています。今回は、そんな現代の新卒就活の潮流に紐づいた書籍『<就活>廃止論』についてご紹介し、現在の新卒就活の特徴や課題について見ていきたいと思います。※本記事では、特に断りがない場合、「同書」という記述は全て『<就活>廃止論』を指します。<就活>廃止論【本記事の構成】▶『<就活>廃止論』の全体像▶"就活ルール"のその後▶『<就活>廃止論』が語る日本的雇用慣行の問題点▶『<就活>廃止論』とunistyleに共通する考え方▶『<就活>廃止論』への疑問▶最後に『<就活>廃止論』の全体像本書の内容を一言で言えば、「日本の新卒採用の問題点とそれを克服するための提言」について書かれている書籍になっています。~『<就活>廃止論』の章構成~第1章:「就活」の時代は終わった第2章:「就活」の<ステップ0>第3章:なぜ学生は就職できないのか第4章:出現率5%の優秀人材になる方法第5章:できる人材は自分で作れ~採用への提言~第6章:就職活動への提言第7章:次世代へのアクション筆者である佐藤孝治氏は、新卒でアクセンチュアに入社し、現在では就活コミュニティーサイト「Jobweb」の代表取締役会長に従事されている方です。発刊は2010年と今ではやや昔のものになっていますが、"就活ルール"が話題となっている現在だからこそ読んでおいて損はない内容がいくつも存在しています。『<就活>廃止論』は、これから就活本番を迎える学生にとって、非常に示唆深い書籍であると言えるためです。"就活ルール"のその後冒頭で、「アンテナ高く正確な情報を追うこと」が重要である旨を述べましたが、皆さんは世間で話題になっている"就活ルールの廃止"がどのような"ルール変更"であるか正しく説明できますでしょうか。「21卒からは就活スケジュールが廃止になる。すなわち、3年生の3月に広報活動・4年生の6月に選考活動が解禁という現状のスケジュールは、20卒で終了となる。」上記のような認識の方は、もう少し情報に対する向き合い方を考えた方がいいかもしれません。”経団連が”ルールの設定をしなくなるだけ”就活ルール"廃止と言われると、就活ルールが21卒から無くなるかのように聞こえるかもしれません。しかし、以下の記事に書かれている観点は認識しておくべきでしょう。経団連は10月、大手企業の採用面接の解禁日などを定めた指針の作成を2021年春入社分から廃止することを決定。政府がこの議論を引き取り、新たな就活ルールについて検討することになった。出典:日本経済新聞就活ルールだけが問題ではないこの記事のポイントは、「政府がこの議論を引き取り」というところです。すなわち、経団連が就活ルールを「無くすことを決めた」のではなく、経団連が就活ルールを「決めることを辞めた」という意味になります。では、議論の舵を握ることになった政府は一体どのような判断を下すのか。これについても政府は既に大枠の方針を提示しています。政府は26日、学生の就職活動ルールについて、現在の大学1年生に当たる2022年卒業以降の学生についても、当面は現行日程を維持する方針を固めた。政府は新卒一括採用の見直しについても議論を始めているが、雇用制度の抜本的な改革には時間がかかるとみている。学生の混乱を回避するため、当面は日程を維持すべきだと判断した。出典:毎日新聞就活ルール22卒以降も現行日程政府方針上記は毎日新聞の10月26日付の記事です。経団連の発表から約50日後。政府は引き取った議論の焦点である「21卒以降の就活ルール」について、「当面は変更しない」。すなわち、21卒以降も3年生の3月に広報活動・4年生の6月に選考活動が解禁という現状のスケジュールはしばらく継続するという結論になります。22卒以降では毎年度改変の要否が判断されていく中で、今後将来的に廃止の方向性へ向かうことにはなるでしょうが、少なくとも直前になって急に変更といった直近の就活生への影響はないとほぼ言い切っていいでしょう。『<就活>廃止論』が語る日本的雇用慣行の問題点『就活ルールの廃止|これからの就活。(1・2年生、21卒以降の学生がやるべきこと)』でも少し触れましたが、就活ルール廃止には、年功序列・終身雇用・新卒一括採用といった高度経済成長期から続くいわゆる日本的雇用慣行からの脱却が根幹にあります。個人と会社の関係は、「一対一」の対応関係から、お互いが多数の選択肢を持つ関係へと変化している。出典:『<就活>廃止論』p37この部分で何が言いたいかといえば、大学を卒業した直後の4月に企業に就職し、その1社で定年まで勤め上げるという日本的雇用慣行は衰退している。すなわち、企業に入るタイミング・出るタイミングが人それぞれの時代へと変化しているということです。『最初の勤め先で人生は決まらない〜納得のいく就職活動を行うために〜』でも述べた通り、一昔前に比べれば日本でも転職というものが一般的になりつつあり、新卒で入社した企業を定年まで勤めあげる人の割合は減少傾向にあります。では、今回のような新卒ルールの変化(=入るタイミングの変化)は、このような日本的雇用慣行の根底を揺るがすものになるのか。結論、現状それだけでは現代の雇用システムを大きく変えることはまだ難しいでしょう。同書にも指摘がありますが、就活ルールという入るタイミングだけが変化しても、結局その分出口にも変化がなされなければ抜本的な変化には繋がりません。日系企業は諸外国と比較して解雇規制が強く、仕事で成果が上がらなくても余程のトラブルでも起こさない限り強制解雇をされることはないという特徴があります。雇用の流動化を高めていかない限り、いくら入口が変化しても日本的雇用慣行がいきなり廃止されるといったことはないでしょう。本件に関しては、unistyle創業者の樋口も近しい指摘をしています。本丸は解雇規制と終身雇用をどうするかなので、入り口のルール変更は大きな影響を及ぼすことはなさそう。すでに終身雇用を前提としない外資やベンチャーを志望する優秀層が増えており、大企業からの転職もじわじわ増えてるので徐々に変化しそうではある。https://t.co/K4v82Y4HF6—KotaroHiguchi(@happytarou0228)2018年10月9日『<就活>廃止論』とunistyleに共通する考え方先述した通り、『<就活>廃止論』は2010年発刊の書籍ながら、8年経った現在の就活生にとっても示唆深い内容になっています。そのため、2011年にサービスを開始したunistyleとも共通する考え方が多く、両者の内容を補完する意味でも読んでおいて損はない内容がいくつも書かれています。共通点1:企業が求める人材像はある程度共通している多くの学生が勘違いしているのだが、学生が就職活動に苦戦している理由は、新卒学生に対する求人が少ないからではない。企業が採りたいと思う学生が少ないからである。出典:『<就活>廃止論』p81unistyleでも何度もお伝えしている通り、総合職に求められる人物像というのは各企業である程度共通しています。端的に言えば、自社の利益に貢献できる人材がそれに該当します。企業からすれば、自社の採用基準を満たしていれば内定を出し、満たしていなければ内定は出さない。それだけの話です(もちろん最低限の採用人数を確保するためにある程度仕方なく採用するというケースはゼロではないでしょうが)。売り手市場・就活氷河期といった市場動向を気にする方は多いですが、最上位の学生にとってはいつの時代でも企業から引く手数多の存在であり続けます。また、業界や企業規模等によってその年の傾向は大きく異なり、売り手/買い手というのはあくまで平均値に過ぎないということは認識しておくべきでしょう。参考:ES・面接で人気企業内定者が企業に伝えていた5つの強みとは?共通点2:「早期化」にはメリットも多い大学と企業社会をまったく特異な、断絶したものと考えるという習慣から抜けきれないから、「就職活動の早期化」を問題視する見方が出てくる。「早期化」、大いに結構ではないか。出典:『<就活>廃止論』p55今では主に3年生の6月から一般的になった企業のインターンシップ活動。それが本格化したのはついここ5年ぐらいの印象があります。『【緊急掲載】経団連、就活ルール廃止を検討|学生への影響は?』では「超早期化」となることをデメリットの一つとして挙げてはいますが、企業と早い段階から接点を持てることはプラスに働く面も多いと思っています。特に「3年で3割が辞める時代」と言われる昨今、学生と企業の間の情報の非対称性・ミスマッチを低減するという意味で、インターンシップを始めとした就職活動の早期化には一定の効果が見込まれます。よく、早期化のデメリットとして学業への影響を真っ先に挙げる論調は多いのですが、本書では「むしろ逆に将来に対する学生の意識の高まりが、「学ぶ」ことへの興味・関心を高め、学業にもプラスに働く面が強いと考える(同書:p53)」と述べています。すなわち、早期化したことで発生した期間で主に行うインターンへの参加・自己分析といった活動は、学業と相反するものではないというのが筆者の主張です。また、就活が無ければその時間を勉学の時間に本当に当てようとしている学生が実際問題どれだけいるのかという疑問も感じています。学生が学業に時間を割くようになるためには、就活に要する時間を減らすこと以前に、そもそもの学業に対する向き合い方を変えないとそれほど効果はないのかもしれません。「学業に悪影響が出るから早期化はダメだ」と短絡的に考えるのではなく、メリット/デメリット双方の考え方を吸収し、フラットに考えることの重要性を再認識させてくれるトピックと言えるでしょう。共通点3:自己PRに求められるのは、"再現性"人事担当者としては偶然性を排除しないと、人を採用する際のリスクになります。その判断ポイントは「自分のルール」を持っているかどうか。「自分のルール」をしっかりと持っていれば、成功の再現性は高いと判断してほぼ間違いないのです。出典:『<就活>廃止論』p116『自己PRは複数エピソードで語れ|ない人も高校時代で代用可能!』でも述べた通り、自身の強みを伝える自己PRでは複数エピソードを語ることで再現性を高めることが肝心です。当然ですが、サークル活動で新たなイベントを企画し何らかの成果を上げた人が企業でも新規事業を立案し収益向上に貢献できるとは限りませんし、アルバイトで周囲を巻き込みチームで成果を出した経験を持つ学生が企業でもリーダーシップを発揮できるとは限りません。採用担当もそれは織り込み済みです。しかし、そんな中で「自社に入ってからも活躍するだろう」というある種の期待感や確からしさを元に選考通過者を選別していくのが新卒就活です。「確からしさ」というのが、本書での「偶然性の排除」に該当し、それを高めるための複数エピソード・再現性だという関係性は把握しておくべきでしょう。『<就活>廃止論』への疑問上記のように、『<就活>廃止論』にはunistyleと共通する考え方がある一方、現在の就職活動に合致するかどうか疑問を感じる点もいくつか存在しています。疑問点1:「新卒"だけ"がキャリアの入口ではない」は確かだが...昔、終身雇用が全盛の時代であれば新卒で入社して短期間で辞めた人には、強いマイナスイメージがつきまとったが、現在ではそうしたネガティブな語感はほとんどない。出典:『<就活>廃止論』p36年功序列・終身雇用・新卒一括採用といった日本的雇用慣行が、従来よりも薄れてきていることは事実です。「新卒で入った企業で定年まで勤め上げる」人の割合は今後も減少していくことが想定されるでしょう。しかし一方で、現在でも日本社会でファーストキャリアが重要であることは事実であり、いわゆる「新卒カード」が優遇されている現状は認識しておくべきです。特に多くの大手企業では、集合研修やOJTを始め新卒に対し多大な費用をかけ育成をするなど、自身の市場価値を高めるうえで恵まれた環境が新卒採用者には整っています。本書では、「早期離職者にネガティブなイメージはほとんどない」と述べていますが、採用担当者からすれば「自社に来てもまたすぐに辞めてしまうのでは」というマイナスイメージは少なからず抱くはずです。企業に入ってもすぐ辞めるような大して能力が身についてないような人を採用するぐらいなら、新卒の学生を一から育成していった方がいいと考えるのは容易に想像できるでしょう。もちろん、本当に不当な労働条件下で働かされたといった"仕方がない"事情もあり得るでしょうが、採用担当者からすればどんな理由であれ「すぐ辞めた人」というレッテルは貼ることになります。「第二新卒でもネガティブなイメージはないからいいや」と逃げや言い訳に使うのではなく、新卒就活は最大のチャンスとして真剣に取り組むべき、という考えをもっていただきたいと思っています。疑問点2:「学歴フィルター」に対する考え方今どき上位校を出たからといって、いわゆる人気企業に必ず入れるなどということは全然ない。東大の学生でも有名企業をすべて落ちる人はたくさんいる。本当である。出典:『<就活>廃止論』p89上記は全くもってその通りの記述であり、東大=上位企業に内定という図式は必ずしも当てはまるわけではありません。しかし、「有名企業をすべて落ちる」というのは、そもそも上位学生は受ける企業のレベルが相対的に高いというバイアスがかかっています。わずか(ルール上では)3カ月程度で勝負が決まる短期決戦の現在の新卒就活において、「MARCH以上」といった学歴フィルターをスクリーニングとして採用の効率性を高める企業はいくつも存在しています。大切なのは、「学歴なんてほとんど関係ないから、入学偏差値が低くても上位学生と同じ土俵で勝負できる」と捉えるのではなく、学歴フィルターは「ある」と割り切って、採用基準を満たすための取り組みに注力することです。参考:就職活動における「学歴」丨「スクリーニング基準」と「採用基準」疑問点3:「学生団体」は変革人材の集合体?顕在化してわかりやすい変革人材クラスターが「学生団体」と言われる集団だ。学生団体は、自分たちの理想やビジョンを掲げ、大学の枠を超えて社会へ飛び出し、社会的に意義のある活動をしている学生の集団で、多くの団体で複数の大学横断的な学生から構成されている。出典:『<就活>廃止論』p176本書では"変革人材"の特徴として、目的意識・行動力・自己理解・環境選択・長期的視点・戦略思考といった要素を挙げています。今の時代Facebookを始めとしたSNSを中心に様々な学生団体の活動を見ることが出来ますが、それらの多くが上記のような変革人材の集合体であるかどうかは疑問に感じます。学生団体の多くは「自分たちの理想やビジョンを掲げ」ているでしょうが、それに沿って「社会的に意義がある活動」をしている団体がどれだけあるでしょうか。とりあえず集まった学生同士の馴れ合いで終わっている団体の方が多い印象がありますが。もちろん、何を持って「社会に意義がある」と判断するのかは個人の価値観に紐づくため正解があるわけではありませんが、少なくとも採用担当者にとって学生団体と接点を持つことが変革人材の効果的な採用繋がるケースがどれだけあるかは疑問に感じます。ちなみに、以下のエントリーは若干の極論も含みますが、ある意味的を得ているような気もしています。参考:学生団体に入るべきではない理由100パターン最後に『<就活>廃止論』は就職活動そのものの廃止を主張している書籍ではないため、その点を批判する意見も多いようですが、"就活ルール"で騒がれる今だからこそ有益な情報がいくつも含まれていると感じます。就活本と言われると自己分析本やWebテスト対策本といった選考突破のノウハウを得るためのものと考える方は多いと思われますが、時には就職活動の全体像を知るという意味で、このような書籍も活用してみてください。 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総合商社の巨額減損の歴史 総合商社の巨額減損の歴史 こんにちは。16卒の総合商社内定者です。原油価格の下落により、ここ数年好調であった総合商社の収益に陰りが見えてきています。三菱商事、三井物産、住友商事は2016年3月期の純利益予想を引き下げています。また住友商事は2期連続での巨額減損となります。参考:減損懸念つきまとう資源事業、市況厳冬下で次の一手に注目-総合商社三菱商事は2015年度の通期業績見通しに関して3,600億円から3,000億円に引き下げました。これにより3,300億円の純利益を予想している伊藤忠商事が業界1位の座を奪う形となります。参考:三菱商事「2015年度第2四半期決算公表」このように総合商社のビジネスは様々な事業領域を世界中の地域で展開しているがゆえに、カントリーリスクや景気の状況に左右されやすいです。特に資源分野には多くの投資コストがかかるので、その分失敗した時の減損額は大きく、連日ニュースでも取り上げられます今回のコラムでは総合商社で過去に起きた巨額減損を振り返り、そこから何が学べるかを考えていきたいと思います。総合商社の巨額減損の歴史三菱商事:数の子買い占め事件(1980年)三菱商事子会社の水産商社である北商が年末に向けて価格が上がるという読み違いを行い、数の子を買い占め値段の吊り上げを図りました。しかし、消費者は買い控えを行い北商は負債を抱えて倒産し、三菱商事にも大打撃が与えました。住友商事:銅の不正取引で3,000億円の巨額損失(1996年)銅不正取引事件とも言われており、非鉄金属部長が10年間、銅のデリバティブ取引や多額の銀行借り入れを不正に継続していた事件です。損失は3,000億円にも及び当時の社長が辞任するほどのインパクトでした。伊藤忠商事:4,000億円の特別損失処理(2000年)建設・不動産関連の不採算資産、アジア債権などの債権を一括処理し、3,039億円の損失を計上しました。トーメン:4,047億円の特別損失(2002年)不動産関係会社の整理・統合、業績不振関係会社の整理や売却などで合計4047億円の特別損失を計上しました。これが致命傷となり、2006年に豊田通商に吸収合併され解散しました。住友商事:シェールガス開発の失敗で3,100億円の減損(2014年)米国タイトオイル開発において1,992億円、ブラジル鉄鉱石事業において623億円、米国シェールガス事業において311億円などがあり、合わせて3,103億円の減損処理を行いました。参考:住友商事「2014年度連結業績ハイライト」丸紅:北海油田のガス開発で610億円、米国穀物子会社ガビロンで480億円の減損(2014年)買収した米国の穀物メジャー、ガビロンの買収のれんで430億円、北海油田関連で240億円など合わせて1,250億円の損失を計上しました。しかし、住友商事が連結純利益を赤字としたことで減損を出したとはいえ丸紅の業界順位は4位となりました。参考:丸紅、「減損1200億円」を招いた2つの誤算住友商事:マダガスカルにおいてニッケル開発の投資回収を失敗(2015年)マダガスカルにおけるニッケルの事業で投資回収見込みを見誤り、770億円の減損を出しました。また南アフリカの鉄鉱石事業でも減損を計上し、2015年度第3四半期の損失を1.116億円としました。参考:住友商事「ネットカンファレンスプレゼンテーション資料」参考:住友商事、ニッケルプロジェクトで770億円の減損損失を計上へ今後考えられるリスク三井物産のブラジルリスクブラジルに対するエクスプロージャー(投資・融資・保証の総額)が約8,000億円でこれは他商社に比べて突出しています。ブラジルは政治的なリスクはもちろん、鉄鉱石事業、ガス事業などの難しい事業を行っており、三井物産がブラジルから回収できる金額は今後の資源価格にも大きく左右されます。また三井物産は原油価格の下落によって2015年度の連結純利益見通しを2,400億円から500億円下げ、1,900億円にしています。伊藤忠商事の中国リスクCITICに6,000億円の投資を行っており、中国全体には約8,000億円の投資を行っています。中国の景気減速により資源価格が下落したともいわれるほど中国の影響は大きく、伊藤忠商事の業績が今後どうなるかは中国の景気に委ねられているとも言えます。参考:三菱、三井、伊藤忠、住商、丸紅ってどう違うの?最後に就活生のみなさんからすると総合商社の減損はあまり身近なニュースではないかもしれません。しかし、なぜ減損が起きているのかを一歩引いてみることで世界では何が起きているのかを考えることもできると思います。また住友商事の巨額減損などで就活生の人気が下がることもありますが、自分が働く企業を考える上でそれが本質的なことであるかどうかを考えてみてください。一時の感情に動じないように自分自身の意志を持つことは就職活動において重要だと思います。photobyTaxCredits 33,583 views

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