総合商社の女性総合職採用比率と他業界の比較
71,528 views
最終更新日:2023年10月20日
先日も政府として国家公務員の女性割合を30% 以上にする政府目標を発表するなど、 女性の社会進出に関する議論が盛んです。 日本における女性の社会進出度の低さは以前から指摘されており、 世界経済フォーラムが毎年発表している「グローバル・ ジェンダー・ギャップ・レポート」 におけるランキングは毎年非常に低い順位で推移しています。
就職活動においても、 女性の総合職採用は不利なのかという質問をよく受けますので、 今回は女性の就職活動に関わるデータを色々と調べてみました。 ちなみに総合職に占める男女の割合については、 就職四季報2015年度版から引用させていただいています。就職四季報には、 男女別だけではなく、文理別の採用数や採用実績こう、 3年後離職率などの就活生が知りたいデータがいろいろ詰まってい ますのでぜひとも手に取っていただければと思います。
全体のデータ
厚生労働省が発表した「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」によると、 対象企業129社の総合職採用予定者に占める女性割合はわずか1 1.6%というデータが出ています。またこの発表では、 男性応募者の5.8%が採用されているのに対して、 女性応募者は1.6%しか採用されていないとして、 男女の採用格差があることを示しています。
総合商社のデータ
【2013年卒総合商社男女比内訳】
2013年のデータ | 総合職合計 | 男性 | 女性 | 女性比率 |
三菱商事 | 175 | 146 | 29 | 16.57% |
三井物産 | 128 | 105 | 23 | 17.97% |
伊藤忠商事 | 110 | 99 | 11 | 10.00% |
丸紅 | 148 | 121 | 27 | 18.24% |
住友商事 | 136 | 124 | 12 | 8.82% |
総合商社全体 | 697 | 595 | 102 | 14.63% |
女性採用比率1位は丸紅の18.24%、最下位は住友商事の8. 82%です。女性の採用に積極的な三菱、三井、 丸紅と消極的な伊藤忠、住友という形が見て取れます。伊藤忠・ 住友と関西系の二社は社風としてもガツガツしていると言われてお り、男性色の強い企業なのがデータからは言えそうです。一方で、 丸紅はさすが「ギャル紅」と呼ばれるだけあるといったところでしょうか。
長期にわたる海外駐在、 長時間労働など女性にとっては働きにくい環境とイメージしがちな 総合商社ですが、 総合商社全体の女性比率は上記で紹介した全体のデータよりも高い ものとなっています。
他業界との比較
【2013卒その他業界女性比率】
2013年のデータ | 総合職合計 | 男性 | 女性 | 女性比率 |
日本生命 | 131 | 120 | 11 | 8.40% |
東京海上 | 90 | 87 | 3 | 3.33% |
三菱電機 | 890 | 740 | 150 | 16.85% |
ソニー | 160 | 133 | 27 | 16.88% |
トヨタ | 592 | 539 | 53 | 8.95% |
NTTドコモ | 257 | 185 | 72 | 28.02% |
KDDI | 253 | 191 | 62 | 24.51% |
NHK | 229 | 170 | 59 | 25.76% |
読売新聞社 | 62 | 41 | 21 | 33.87% |
朝日新聞社 | 66 | 41 | 25 | 37.88% |
その他の業界についても女性総合職の比率が発表されている会社の ものを抜粋しました。 傾向としては金融関連の企業は非常に女性総合職の採用比率が低く 、東京海上ではわずか3.3%です。総合職で採用しない分、 一般職や地域総合職で大量に女性を採用するのが金融機関の特徴と 言えそうです。
一方で、通信業界やマスコミ業界は軒並み、 女性総合職の採用比率が高く、朝日新聞社は37.88% という結果になっています。通信業界・ マスコミ業界ともに3年後の離職率は低く、 女性が活躍するための風土がある程度整っている様子が読み取れま す。女性の社会進出やキャリア進出という文脈の中では、 海外の事例をモデルケースにする例が多いのですが、 このような日本の伝統的企業にその答えがあるのかもしれません。 もちろん女性の役員活用についてはまだまだ遅れており、 KDDIで2014年4月に初めての女性執行役員が誕生したと報 道されたのみです。
ちなみにグローバル企業の代表格といえるgoogleの女性比率 もまだ30%にすぎないようです。
学歴にみるデータ
最後に学歴に関するデータを紹介したいと思います。① キャリア志向の人は上位校への進学を目指す、② 企業が学歴をスクリーニング基準として採用しているとすると、 上位校の男女比は女性総合職の採用数に直結しそうです。
東京大学の女性比率は約18%、京都大学が22%、 慶應義塾大学が34%、早稲田大学が36%となっています。 女性は親元を離れず、 キャリア志向でも地元国立大学へ進学するという意見もあったので 調べましたが、山梨大学が30%、島根大学が37% と大きな違いは見られませんでした。
慶應や早稲田といった上位校の女性学生の中にも、 一般職志向の学生は多く、 特に総合商社や金融の人気はまだまだ高いと言われています。 商社一般職の倍率は総合職よりも高い500倍になることもあるよ うです。
学歴が企業の採用スクリーニングに使用されているとすると、 上位校の一部学生が一般職に流れたとしても、20%〜30% の女性が総合職として採用されるべきと言えるでしょう。
最後に
女性のキャリア問題についてはなかなか難しく、 上記で紹介した通り、Googleのようなグローバル企業もまだ取り組みの最中である と言えます。
日本の雇用環境について、新卒一括採用、 終身雇用を前提とした採用慣習、 ホワイトカラーエグゼンプションなど様々な議論がされています。 しかし議論がどうしても新卒一括採用批判や残業代なし法案といっ た形で、 個別のものに集中してしまいがちであるように感じています。 女性のキャリアについても単純に女性の採用数を増やす、 幹部を増やすために数字目標を掲げるといった対処ではなく、 なぜ女性が働きづらいのか、 その大元となっている制度や雇用体系は何なのかといった全体から の議論をするべきだと思っています。
なお、雇用環境について日本型雇用と欧米型雇用のメリット・ デメリットについてはこちらのブログで紹介されている本が面白いかもしれません。
photo by Sam Churchill